今回は「シンデレラ製品づくり」コンサルタントとして、自身も数々のシンデレラ製品を世に送り出した実績を持つ深見信吾さんにインタビューを実施しました。
No.1商品を作り上げた深見さんの実体験から、製造業を中心とした日本のものづくり企業が目指す先、そして、若手の従業員が何をすべきかなど、様々な視点からお話を伺っています。
深見信吾
1960年2月22日生まれ。1982年に日本タングステン(株)入社後、大阪支店に13年勤務。新規開拓営業の社員としてトップの成績を誇る。1995年に本社営業部勤務となり、全社の営業とマーケティングを統括。竹田陽一氏との出会いをきっかけに「シンデレラ製品」による商品戦略を知り、市場シェアNo.1製品を作り出すなど多くのプロジェクトを成功させる。その後名古屋支店長、中国販売会社総経理、事業支援本部副本部長、理事を経て2022年に退職。
2021年にドラッカー学会第16回大会in博多にて「成果はドラッカーの言葉の実践から〜シンデレラ製品開発ストーリー〜」を報告し、大きな反響を得る。現在は自身の経験に基づいた「シンデレラ製品づくり」の講演を全国で行っている。
具体的にシンデレラ製品というのはどういったものを指すのですか?
企業の中でポテンシャルがあるはずなのに、どういうわけか日の目を浴びず放置されている商品のことです。みなさんがよく知っている童話で例えると、舞踏会に連れて行ってもらった姉妹が、その企業にとっての「主力製品」になります。そして、灰をかぶって影で泣いている主人公が「放置されている既存の商品」ですね。その主人公に「イノベーション」という魔法をかけることで、王子様に見初められるような「シンデレラ製品」に変わる……と。このイノベーションを起こすことが、シンデレラ製品を生み出すための重要なファクターとなります。
イノベーションを起こすためには何をすればよいのでしょうか?
ひと言で「イノベーション」と聞くと難しく感じてしまいますけど、実はイノベーションの源泉は「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」だったりするのがほとんど。割と他力本願なんですよ。
大事なのは、そういった源泉となるイレギュラーを見逃さずによく観察して、シンデレラ製品につながるアイデアを見つけるということなんです。とはいえ、そう簡単に見つかるわけではないから、常に気をつけていないと見逃してしまう。
私はよく「そよ風」と言っているんですが、変化につながるアイデアやチャンスは、まずそよ風で来るんです。ですから、イノベーションを起こすためには、組織にそれを感じやすい風土を作ることが大切だと思います。
日本はイノベーションで欧米に差をつけられている印象がありますが、何が原因なのでしょうか?
日本はチャレンジすることに対して慎重というか、消極的なところはありますね。逆に欧米では企業はもちろん、社員レベルでも「いいかも」と思ったら即行動に出るようなスピード感があります。
私が5年ほどいた中国も同じ。社員がみんな「いつか独立したい」と思っているから、社内研修をしても本当に一生懸命なんです。それに比べて、日本では多くの現場で研修を行っても「言われたから参加している」というスタンスの参加者が多く、どちらかと言うと「やらされている」感が強いのが現状です。
ご自身が若い頃に経験した苦労や、印象深いエピソードがあれば教えてください
日本タングステンに入社したのは今から40年前です。深見家は元々鋳物師の家系で、製造業を選んだのもそれが影響したのかもしれません。
入社後は大阪支店の新規顧客開拓で結果を出し、本社営業部に抜擢。養った現場感覚を駆使して「全社を改革しよう!」と張り切って赴任したんですが、最年少の社員だったこともあって周りからは完全に小僧扱いされました。営業実績など関係なく、当然のように倉庫の掃除を命じられていましたね。
悔しかったから、辞書で引いた「Chrysalis(さなぎ)」という言葉をデスクに貼って「いつか蝶になってやる!」と思って仕事をしていました。
入社3年目くらいからは、仕事を教えてくれない上司に期待せず自分で勉強するように。
大企業の管理職が参加するような講座にも自費で参加しました。そんな場所に25、6歳の若造が個人で参加しているのは珍しかったようで、周りからすごくかわいがってもらいましたね。それをきっかけにコネクションが広がっていき、ビジネスの見方も変わっていったと思います。
深見さんから見て良い上司の条件とは何でしょうか。また、若い世代にアドバイスはありますか?
やはり、他人の強みを見つけられる目と、それを高められる指導力のある人が上に立たないと組織は衰退していくと思います。
入社したての新人にとって、最初の上司は大事です。組織の中で仕事を覚えて出世していくにしても、まずは最初に教わったやり方を踏襲しますからね。その点で最悪なのは、能力の無い上司の下に優秀な新人がついてしまうこと。最初がつまらないとずっとつまらないから、すぐ辞めてしまいます。そうして良い人材がどんどん流出していく企業はこれまで数多く見てきました。
一方で若い世代に言いたいのは、動画サイトやアプリを見るだけの勉強では具体的・抽象的思考のトレーニングはできないということ。利便性は高いですが、短絡的な情報のインプットに頼ると若い時期に学んでほしい応用力が鍛えられないので「もったいないな」と思います。
ですから、具体的・抽象的思考のトレーニングとして、私の講演ではできるだけ異業種の事例を教えるようにしています。自分たちのテリトリーではないところで本質を抽象的に学び、自分の業種へ具体的に落とし込む力を養ってほしいからです。
製造業で頑張っている人たちにメッセージをお願いいたします
今、日本の賃金が上がらないと言われていますが、それは商品の粗利が絶対的に不足しているから。なのに、肝心の商品を作る企業が「良い商品がない、作り方を知らない、売り方を知らない……」ではダメなんです。未来が先細っていくだけ。ですから、まずはそよ風を掴んでシンデレラ製品を生み出し、企業の強みを作り出す努力をしてほしい。それを繰り返せば賃金が上がって国力も強くなり、再び世界をリードできると思います。
私は日本の製造業に40年間育ててもらった恩返しとして、シンデレラ製品というコンセプトで業界をもう一度元気にしたい。そして、何十年か後に「日本の賃上げに貢献した男」として覚えていてもらえたら嬉しいですね(笑)