コンサルタント・水谷 梨恵が、日々の業務から思ったことを綴るコラムをお届けします。
部下(上司)と仲良くなりたいのはなぜですか
春になり新年度がスタートすると、職場の人間関係にまつわる相談が増えます。
その多くを占めるのが、上司と部下のリレーションシップについてです。
上司の立場である管理職からは
・歳の離れた部下とコミュニケーションをとるにはどうすればいいか
反対に、若手社員からは
・自分の親ほど歳の離れた上司にどう接すればいいか
などと、相談を受けます。
これらの問いに対し、私は決まってどちらにも同じように答えるのです。
【コミュニケーションは無理にとらなくていい】と。
この言葉を聞くと、皆さんは「それでは何も解決しないじゃないか」と感じることでしょう。
では、これから言葉の真意を説明していきたいと思います。
※当然ですが、コミュニケーション自体を否定しているわけではありません。弊社においても、目的に応じた多くのコミュニケーション研修を実施しています。
まず、上に書いた上司と部下の相談内容について、共通した課題は「コミュニケーション」ですが、一体それは何が目的なのでしょうか。
お互い本音で語り合って仲良くなることですか?
それとも一緒にSNSで映える写真を撮ること?
違いますよね。
ビジネスというフィールドにおいて、コミュニケーションを図る目的、それは友達になることではありません。【業務で成果をあげること】です。
コミュニケーション自体は、その目的を達成するための手段に過ぎません。つまり、成果という目的を果たす手段を他に見つければ、無理してコミュニケーションを図る必要は無いと私は言いたいのです。
この問題で悩む人の大半は、上司の場合は成果のために部下と仲良くしないといけないと思い込み、部下の場合は評価のために上司と仲良くしないといけないと誤解しています。
そのために、お互いジェネレーションギャップがあるのにも関わらず、気持ちを必死に理解しようとしますが、当然ながらうまくいきません(まあ、気持ちが理解できるならこの問題で悩むことはないのですが……)。
コミュニケーションエラーが発生する理由とは
では、コミュニケーションの代わりに必要な手段とはなんでしょう。
それは報・連・相(報告・連絡・相談)です。
もっと具体的に言うのなら【報・連・相の仕組みづくりと運用】でしょうか。
報・連・相の仕組みがしっかりできて正常に機能していれば、必要以上にコミュニケーションをとらなくても仕事がまわり、成果は出るはずです。
ただ、残念ながら私がこれまで携わってきたコンサルティングの現場では、報・連・相がなぜ必要なのかを説明できない管理職社員が多いです。
「チームワーク強化のために」
「トラブルが起きないために」
と、もっともらしい答えを聞きますが、どれも本質ではありません。
そのため、報・連・相のルールがあっても表面上だけで運用できておらず、頓挫している職場が多いです。
機能していないケースでいちばん多いのは、上司が部下に対して「何かあったらなんでも聞いてね!」と投げかけているパターン。一見するとウェルカムなコミュニケーションに聞こえますが、実は突き放しの言葉です。部下に丸投げしているだけ。この上司は「何かあったら」と言っていますが、そもそも「何か」の定義を上司と部下ですり合わせていたのでしょうか。もしも部下と認識がズレていた場合、何も聞いてこないと思ったら事故を起こしていた……ということにつながりかねません。
こうした報・連・相の機能不全によるコミュニケーションエラーは本質を理解していないから起こること。ひと昔前なら居酒屋で「飲みニケーション」をして防げたかもしれませんが、令和になった今は違います。
改めて書きますが、ビジネスにおける報・連・相の本質とは、仕組みやルールを定義して共有・運用することで生産性を高め、成果を出すことです。先ほどのケースで考えてみると、上司は「何かあったら」とざっくり伝えるのではなく「5分考えてみてわからなかったら聞いてね!」などと「何か」の部分を具体的に定義づけし、部下と共有すればいいのです。そうすることで報・連・相が一気にフロー化します。同時に、定義づけした5分は評価基準として機能しますので、例えば部下が5分以内に自分で解決できるようになり、聞いてこなくなったら5分を3分、そして1分と徐々に縮めていけば成長のバロメーターとなります。
上司と部下が報・連・相をベースにお互いの現在地を確認して目的を共有、プロセス(行動計画)の結果(成果)を話し合ってリトライ……と、業務の中で仕組みを活用し、信頼関係ができればコミュニケーションは後からついてくるもの。そうすれば、もうお互いの関係性にモヤモヤすることはないでしょう。
理想の上司に必要なもの
上司と部下に限らず、ビジネスにおける人間関係は成果を出すことが大前提です。
いくら仲が良くても、仕事で結果が出ていなかったら意味はありません。
ですから、くれぐれもその本質を理解しないまま闇雲に「コミュニケーションをとらなきゃ」と考えないようにしてください。無用なコミュニケーションに終始している人は最初こそ「いい人」と慕われますが、肝心の結果が伴いません。その結果、次第に周りとの関係性が悪くなり、そのうち「どうでもいい人」になってしまいます。
そして、もうひとつ大切なこと。上司と部下の信頼関係は一緒に成果を出すことで構築されていくものです。仕事のために必要な仕組みを共につくり、真摯に取り組めば、その過程でおのずとコミュニケーションは生まれます。間違っても仕組みだけつくって安心し、コミュニケーションをサボるようなことはしないでください。
ではコラムの最後に、私の考える理想の上司とはどんな人かお教えします。
それは「自分の利害に関わらず部下のために行動できる人」です。
部下は上司からの小言が誰の都合で言われているのか、その言葉の「主語」に対して敏感です。
つまり、同じ言い方をしても、あなたの腹の内次第で部下が「厳しいけど私のために言ってくれている。頑張ろう!」と思うか、はたまた「管理責任が問われるから言っているだけじゃないか。結局は自分の都合か……」と思うかが決まるということ。
この差を分けるもの、それは自身の利害関係を超えた【愛情】があるかどうかだと思います。
コミュニケーションに悩む管理職の皆さん、まずは部下に言った言葉を思い出して、その主語が「自分」になっていなかったか、考えてみてください。そして結果がどうであれ、明日からぜひ愛情をもって部下に接してください。必ず後になって自分に還ってくるはずですから。