M・Tコンサルティングのパートナー講師で助産師の隅田 真理子さんにお話を伺いました。長年に渡り産婦人科に携わった経験から、女性の健康を守ることの大切さや、女性活躍社会に向けた企業課題、女性が活躍しやすい職場づくりについて、インタビューでお届けします。
プロフィール
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隅田 真理子
看護師・助産師・修士(教育学)。40年以上、教育・臨床の現場で助産師・教員・管理者として業務に従事。臨床においては助産師として分娩に関わり、取り上げた赤ちゃんは1500人以上。管理者としては新人助産師教育や指導者育成を中心に取り組む。1985年、日航機墜落事故現場の御巣鷹山にて支援業務に就く。2018年から2年間、モンゴル国における妊産婦管理に関する指導能力及び助産技術強化プロジェクト(JICA事業)の一員として関わる。
職歴
名古屋第一赤十字病院、大森赤十字病院にて勤務後、東京都立医療技術短期大学(現首都大学)にて助産師教育に従事。1997年、岐阜県に移住し、岐阜厚生連 久美愛厚生病院にて看護師長、2010年から2022年まで医療法人葵鍾会にて看護師長、副部長(教育担当)として約600人の看護師・助産師の育成を行う。
登壇実績
教育機関(中高)、企業、労働組合、地域の女性健康支援センターなどで講演多数。1997年からの10年間、JA岐阜看護専門学校にて非常勤講師。2022年から2年間、人間環境大学にて非常勤講師。
女性の健康対策がなぜ必要か
働く女性の健康対策について大切なことを教えてください
まず、女性自身が自分の体を知ることが大切です。そもそも女性の健康問題は、女性が自分の体についてあまり知らないことに根本的な原因があります。私は助産師として40年以上働いてきましたが、妊娠や出産の現場でも、女性が自分の体について十分な知識を持っていないと感じることが多いです。特に働く女性は、体の変化や不調を感じても「仕事を休めない」と無理しがちですが、まずは自身の体の声に耳を傾け、早めに婦人科に行くなど、専門家に相談することが重要です。
新卒で働き始めた世代の女性は、どのようなことに気をつけるべきですか?
新卒で社会に出る20代前半は環境の変化に敏感です。特に働き始めたばかりの頃は学生時代に比べて生活スタイルがガラッと変わりますので、もし生理痛がいつもより重いなど「しんどい」と思うことが増えたりしたら、無理をしないでほしいですね。我慢せずに婦人科に行って先生に相談し、低容量ピルなどを使って自分の体調を管理することも選択肢のひとつです。今は医学が進歩し、女性の健康課題に対する治療法も豊富にあります。大事なのは自分の体調を管理し、おかしいと感じたら無理をせずに適切なケアを受けることだと思います。
ライフステージの変化とキャリア形成
妊娠・出産など、ライフステージの変化がキャリアに与える影響についてどう思いますか?
キャリアへの影響に関して、妊娠や出産は女性にしかできないことであり、男性と比べるとどうしてもキャリアが一時的にストップしてしまうという現実があります。また、子育ての現場では「3歳児神話」とよく言いますが「子どもが3歳になるまでは母親が育てるべき」という考え方が今も根強く残っており、これがキャリア復帰をためらわせる要因のひとつになっています。実際、仕事に復帰したいと考えていても育児の負担が重くのしかかり、結果として退職に追い込まれるケースは多いです。女性のキャリア支援を推進するのなら、世間のこういった先入観を変えていくことが大切なのではないでしょうか。
今は医学が進歩し、妊娠や出産のタイミングをある程度計画できる時代です。キャリアと家庭を両立させるためにもパートナーとよく話し合いながら、自分たちにとって最適なタイミングで妊娠や出産を迎えることが理想だといえます。
ミルク育児についても議論されていますが、母乳にこだわる必要はありますか?
これも昔から「母乳がいちばん」という考え方が根強くあります。現在、市販されているミルクは母乳に近い栄養を含んでおり、専門的な立場から見ても無理して母乳にこだわる必要はありません。仕事復帰するにあたって母乳育児が負担となる場合、ミルクを使うことで復帰がしやすくなります。もちろん、母乳をあげることで感じる幸せもありますので、それを大切にしたい方は母乳育児を選べばいいと思いますが、私は女性のキャリアパスにもっと広がりを持たせるための啓蒙として、必ずしも母乳育児が絶対ではないということを講演の際に伝えています。
女性が活躍することで社会に与える影響
女性が社会で活躍することは、日本の経済にどのような影響をもたらすと思いますか?
例えば、優秀な女性が妊娠や出産、育児で仕事を休み、結果的にキャリアの第一線から離れることは、会社にとって大きな損失です。もし、その人が妊娠や出産を理由にキャリア形成を断念することなく早期に復帰できる環境が整えば、持っている潜在能力を最大限に発揮し、会社に利益をもたらすでしょう。それは結果的に、社会全体の生産性向上につながります。
そして、本質的には性別に関係なく、キャリアを形成したい全ての人がライフステージの変化に影響されず活躍できる社会が理想です。ちなみに、日本では助産師が女性限定の職業ですが、海外では男性の助産師も活躍しています。どのような職業も、性別に関わらず適材適所で活躍できることが望ましいと思います。
女性が働きやすい職場環境とは
女性が働きやすく、活躍しやすい職場環境とはどのようなものでしょうか?
理想的な職場を具体的に挙げると、長時間労働を強要されず、有給休暇や産休・育休が気軽に申請しやすい職場です。そのほか、転勤がない雇用形態や、企業内に託児所や保育所があることも有効だと思います。特に、子育て中の女性にとっては企業内保育所があることで、子どもを安心して預けながら働くことができます。
また、日本の労働力人口総数に占める女性の割合が 40%を超えた今、企業も女性の管理職をもっと増やしていくことが必要になってくるのではないかと思います。女性管理職が活躍する姿を目にすることで、若い女性たちが「自分にもああいう未来があるんだ」と感じるようになるでしょう。そのようなロールモデルが存在することが、女性が活躍しやすい職場環境づくりにおいて非常に大切です。
真の女性活躍社会に向けた企業課題とは
企業における女性活躍推進の際の課題は何でしょうか?
ビジネスの現場では、妊娠・出産をキャリアの「中断」と捉えていることが多く、その考え方が推進を妨げているのではないでしょうか。妊娠や出産は、その女性の人生経験を豊かにしたり、人間性を大きく成長させたりする機会であり、決してキャリアにとってマイナス要素ではありません。しかし、多くの企業では「リソースが一時的に失われる」としてネガティブに捉えられています。このバイアスを解消することが、企業に求められる課題です。
例えば、出産後の女性社員が長期にわたって休む代わりに、パートナーの男性も積極的に育児休暇を取得することで、負担が男女で分散されます。そうすればひとりあたりのブランクが短く済みますし、それだけ復帰も早くなるはずです。その結果、社会全体としてのリソース欠如を最小限に抑えることができ、男女が平等に育児とキャリアを両立できるようになります。
女性の健康課題について伝えたいこと
女性の健康課題についてメッセージはありますか?
まず、女性が自分の体を正しく知ることが大事です。そして、生理痛やつわりなどの女性特有の健康課題は、適切な治療法や解決策がありますので、今の時代に我慢する必要はありません。また、日本ではピルに対する正しい知識が浸透しておらず、使用率が非常に低いことも課題です。欧米諸国では30%の女性がピルを利用していますが、日本ではわずか3%。健康課題の解決手段として、医師と相談しながら状況に応じてピルを「ライフデザインドラッグ」として利用することも、健康で快適な生活を送るために取り入れていってほしいと思います。
健康でなければ、自分の持つポテンシャルを最大限に発揮することは難しいですし、逆に健康であれば、キャリアもプライベートも充実します。自分の体調が悪いときには無理せず、医療機関に相談して適切なケアを受けることを大切にしてください。
M・Tコンサルティングの研修講師としての今後の目標
今後、研修講師としてどのような目標をお持ちですか?
M・Tコンサルティングで研修講師を務めることは、私にとって新しい挑戦です。
代表の水谷さんとは、私がかつて勤めていた医療法人で一緒に働いていた関係。彼女は広報として、いろいろなアイデアを出して活躍していました。お互いお酒が好きなのでよく一緒に飲みに行ったり、楽しい時間を過ごしたりした思い出があります。
時を経て、彼女から講師としてのお話をもらってすごく嬉しかったですし、講演を通してさらに多くの人に女性の健康問題について知ってもらい、働く女性がライフステージを通じて健康でいられるよう、サポートしていきたいと考えています。